糖尿病
糖尿病のリスクを下げる厚生労働省研究班の調査(※2)では、まず乳製品およびカルシウムの摂取量によって4つのグループにわけ、糖尿病発症のリスク比較がおこなわれています。
その結果、女性の場合には乳製品の摂取量が「もっとも多いグループ」は、「もっとも少ないグループ」と比較すると、発症リスクが約30%低いことが報告されています。また、カルシウムの摂取量については、統計学上はっきりした違いはみられないとしています。
一方、男性の場合には、乳製品およびカルシウムの摂取量と糖尿病の発症について、関連性が認められませんでした。
次に、ビタミンDについては、単独で摂取した場合には男女ともはっきりした効果はみられないことがわかりました。
しかし、ビタミンDの摂取量が「多いグループ」と「少ないグループ」にわけ、さらに、カルシウム摂取量と合わせて糖尿病との関連を調査したところ、興味深い結果がみられました(※3)。ビタミンDとカルシウムともに摂取量が多いグループは、糖尿病発症リスクがはっきりと低かったのです。男性では約38%、女性では約41%ものリスク低下がみられました。
これらのことから、カルシウムとビタミンDを一緒に多く摂取することで、男女ともに糖尿病の発症リスクが低くなることが判明しました。
ただしこの調査では、カルシウムやビタミンDをサプリメントで摂取した場合については検証されていません。両方の栄養素とも、食事から摂取した場合のデータです。
(※2)厚生労働省研究班による「多目的コホート研究」による。日本各地の40~59歳の男女約6万人を対象にした5年間にわたる追跡調査で、2010年 2月に報告されました。(※3)摂取量の多いグループとは、カルシウムの場合は中央値(グループの真ん中付近の数値)が男性で1日629mg、女性で810mgと報告されています。ビタミンDについては、平均より多いグループとされています。
糖尿病
糖尿病予防のために
Vol.85 カルシウム+ビタミンDで糖尿病の予防・改善を 糖尿病の患者さんの中には、カルシウムが糖尿病(2型)の改善に大切なことを知っている方もおられることでしょう。でも、血糖値が少し高めといわれている予備軍の方など、一般の方にはまだあまり知られていません。
そこでまず、カルシウムと糖尿病との関係について、簡単にご紹介しましょう。糖尿病は、すい臓から分泌されるインスリンの働きが低下することから起こります。そのインスリンの分泌をうながすシグナルを送る役割をするのが、カルシウムなのです。
カルシウムが不足すると、インスリンが正常に分泌されなくなり、血液中のブドウ糖がうまくエネルギーに変換されません。すると、血液中にブドウ糖があふれて血糖値が高くなり、その状態が慢性化すると糖尿病を発症します。このことから、糖尿病の対策の一つとして、カルシウムを多くとることが大切とされています。
ところが、最近の厚生労働省研究班による調査から、意外なことがわかってきました。カルシウムだけでは効果は少なく、一緒にビタミンDを多くとることで効果が高まることが判明したのです。アメリカでは女性看護師を対象とした調査から、同様の効果が指摘されていましたが、男性もふくめて日本人では初めて実証されました。
日本ではこの10年間で糖尿病とその予備軍の方が1.6倍にも急増し、2200万人を超えています(※1)。もし、あなたの血糖値が高めだったり、家族に糖尿病の方がいる場合には、カルシウム+ビタミンDによる予防や改善について知っておきましょう(すでに糖尿病の治療を受けている方は、医師と相談してください)。
腸内フローラ
オリゴ糖にはさまざまな種類がありますが、代表的なものは次のとおりです。
フラクトオリゴ糖(ゴボウや玉ねぎ、にんにくなどに多い)
ガラクトオリゴ糖(牛乳や乳製品に多い)
大豆オリゴ糖(大豆や豆乳、味噌などに多い)
イソマルトオリゴ糖(はちみつなどに多い)
朝食を抜くより「せめてヨーグルトとバナナだけでも」摂ったほうがいいという意見を聞いたことはありませんか。バナナにはオリゴ糖が含まれているので、ヨーグルトと同時に摂ることが、1日のスタートを切るのに有効だからです。ただし、人によってはオリゴ糖を摂り過ぎるとお腹が緩くなることがあるので、注意しましょう。
そして、腸内フローラを改善するために必須なのが食物繊維です。なかでも水溶性食物繊維は善玉菌のえさになります。
では不溶性食物繊維は必要ないかというと、そんなことはありません。不溶性食物繊維は便のカサを増やして、排便をスムーズにしてくれます。便秘を防ぐことで食べ物のカスなどが腸に残らなくなり、その結果、悪玉菌を増やすことも防いでくれるのです。
最近、「便移植療法」という治療法が脚光を浴びています。腸内細菌の乱れが原因と考えられる難病患者の腸内に、健康な人の便を移植することで、腸内フローラを健康なものに戻そうというものです。もちろん便は適切に処理されたものを使用します。日本では潰瘍性大腸炎など限られた疾病に対して、家族または配偶者の便を使用するなど厳密な規定のもとで臨床研究が進められています。
アメリカではすでに治療法として確立されており、クロストリジウム-ディフィシル感染症に関しては非常に高い治療効果が表れていると報告されています。日本でも研究が進んで、新たな治療法として確立されることを期待したいものです。
腸内フローラ
ヨーグルトを摂取して取り入れた乳酸菌の多くは胃酸や胆汁酸などで死滅してしまうため、生きて腸まで届くことはほとんどありません。体内に入ってきた菌は異物とみなされ、体を守るために殺菌されてしまうからです。また生きて届いた菌も、腸内に棲みついている常在菌によってふたたび異物とみなされ排泄されてしまうため、定着することが難しいのです。
しかし、体内に入った乳酸菌はさまざまな物質を分泌します。それらの物質が、腸内に棲みついている乳酸菌を応援し、増やしてくれます。乳酸菌を摂取することで、その乳酸菌が生み出す物質が腸内フローラによい影響を与えるのです。
ただし、ヨーグルトは乳製品のため脂肪も含まれています。個人差はありますが、1日100g~300g程度にするのがいいと考えられています。
ヨーグルトだけでなく、ぬか漬けやチーズなどの発酵食品も腸内フローラの改善に役立ちます。みそや納豆も同様です。ヨーグルトだけを信奉するのではなく、発酵食品の種類を食卓に増やすことも重要な一歩です。
また、腸内のビフィズス菌のえさとなるオリゴ糖も腸内フローラを改善するのに有効です。
オリゴ糖は小腸で吸収されずに大腸まで届きます。
腸内フローラ
大人になってから腸内フローラを改善するにはどうしたらいい?では私たちの普段の生活で、腸内フローラを改善するにはどうしたらいいのでしょうか。一番簡単にできることは、善玉菌が好むヨーグルトなど発酵食品とオリゴ糖、食物繊維を摂取することです。ヨーグルトにはさまざまな種類がありますが、どれを選んでも同じ、というわけではありません。自分に合った菌が含まれていなければ、腸内フローラの改善には結びつきにくいのです。そのため、最近では朝と夜とで異なる種類のヨーグルトを摂取することを勧める医師や専門家が増えています。また同じヨーグルトを摂取し続けて、2週間たっても体調が改善されなければ別のヨーグルトを試すべき、とする意見もあります。いずれにせよ自分で判断するには、便秘や下痢など便通の変化、便の臭い、肌の調子などがバロメーターだと考えられます。お母さんの腸内環境を変えることで、生まれてくる赤ちゃんにいい影響を与える可能性を示唆する研究もあります。家族にアトピー症状のある妊婦150人以上を2グループに分け、一方にはLGG乳酸菌入りのカプセルを、もう一方にはプラセボ(偽薬)を飲ませるという実験がフィンランドで行われたことがあります。そして2年にわたって追跡調査が行われました。その結果、乳幼児のアトピー発症率は、プラセボを飲ませたグループでは46%だったのに対して、乳酸菌を飲ませたグループで23%と半減しました。妊娠中に乳酸菌で腸内環境を変えることによって、生まれてくる赤ちゃんのアレルギーを解消できる可能性があると示されたのです※4。
腸内フローラ
腸内フローラはどうやって出来上がる?
お母さんの胎内にいる間は、赤ちゃんは無菌状態です。そして出産時に産道を通ることで、お母さんの菌を受け継ぐといわれています。赤ちゃんは生まれると呼吸を始めますが、そのときにお母さんの菌だけでなく、医療機関に棲みついている菌、医師や看護師さんたちの菌も体内に取り入れます。
また、赤ちゃんは母乳を飲み始めるとお母さんからIgA(免疫グロブリンA)という抗体を受け継ぎ、体内を細菌やウイルスの感染から守ります。母乳を飲んでいる赤ちゃんの腸内細菌の約90%がビフィズス菌といわれています。母乳に含まれるオリゴ糖がえさとなって、ビフィズス菌が増えているのです。このため、生後半年以上は母乳で育てるのがいいといわれています。
このようにして、生後1年までには赤ちゃんの腸内環境が整ってきますが、ビフィズス菌が増えるのと同時に悪玉菌や日和見菌を取り入れることで、免疫が獲得できるようになります。そして出来上がった腸内フローラは、そのまま生涯、人生のパートナーとなります。
最近では医師が「赤ちゃんとスキンシップしなさい」と指導することが増えているといわれています。授乳だけでなく「おんぶ」や「だっこ」などの触れあいによって、免疫機能が受け継がれていくと考えられるからです。
クロアチアのメルクール大学のグループの研究によると、帝王切開で生まれた赤ちゃんは、お母さんの産道や直腸に存在する善玉菌を受け継ぐことができないと報告されています。それどころか、赤ちゃんの免疫が十分に獲得できない悪玉菌が受け継がれやすいというのです。帝王切開で生まれた赤ちゃんの腸内フローラはビフィズス菌が少ないため、糖尿病患者の腸内フローラに近い状態であるとも指摘されています※3。
話は少し横道にそれますが、動物の世界でも似たようなことがあります。
コアラが食べるユーカリの葉には、有毒なタンニンが含まれています。ところがコアラの赤ちゃんは、生まれた時点ではタンニンを分解する酵素を持っていないため、ユーカリの葉を無毒化することができません。そこでお母さんの糞をなめることで、タンニンを分解する酵素を作り出す腸内細菌を受け継ぎ、生きていくために必要な腸内細菌に変えていくのです。
腸内フローラ
がんや糖尿病、アレルギーに対しても影響を与える
病原菌やウイルスなどが体の中に入ったときに、身を守ろうとするのが免疫です。1日3000個以上生まれているといわれるがん細胞のほとんどが大腸で発生していますが、そのがん細胞に対抗するのも免疫です。そんな重要な役割を担う免疫細胞の約70%は腸に存在しています。免疫の機能を万全な状態で働かせるためには、腸内環境が重要です。
悪玉菌は動物性のたんぱく質などをエサにして、硫化水素やインドール、スカトール、アンモニアといった毒素を作り出します。この毒素によって腸の消化・吸収力が低下すると、栄養素が全身にいきわたらなくなってしまいます。また、悪玉菌が優勢で腸内環境が悪化すると便秘や下痢、便が臭うなど、体調に変化が現れます。反対に善玉菌が優勢だと、免疫細胞を活性化させてくれるのです。
また、クロストリジウム・アリアケ(アリアケ菌)という腸内細菌ががんを引き起こすことも明らかにされました。アリアケ菌はDCAという物質を排出するのですが、このDCAは細胞を老化させる物質です。老化した細胞が周囲に発がん性物質を出すことで、がん細胞が生まれてしまうのです。ちなみに、この新種の腸内細菌は、がん研究会有明病院の研究者が発見したため、アリアケ菌と名付けられました。
糖尿病と腸内フローラの関係も無視できません。糖尿病ではインスリンが出にくくなりますが、その原因と考えられるのが短鎖脂肪酸の減少です。短鎖脂肪酸が脂肪の取り込みを抑え、肥満を防いでくれる点は先ほど述べたとおりですが、短鎖脂肪酸が減ると、インスリンの分泌も減ってしまうのです。
幸せな気持ちをもたらすといわれている神経伝達物質の一つ、セロトニンの約90%は腸にあり、脳には約2%しかありません。腸のセロトニンはそのまま脳に届くのではなく、セロトニンの前駆体が作られてそれが脳に届き、合成されてセロトニンになると考えられています。このとき、セロトニンの前駆体を作るために必要となるのが腸内細菌です。ところが糖尿病患者は腸内環境が悪化している場合が多く、セロトニンの前駆体を作ることが困難です。そのため脳にセロトニンが少なくなってしまうのです。さらには、うつ病患者の脳では、セロトニンが少ないことも明らかになっています。
腸内フローラ
腸内フローラが、私たちの体に与える影響にはどんなものがあるのでしょうか。
まず注目したいのが、肥満との関連です。成人の腸内細菌は「バクテロイデス門」と「フィルミクテス門」の二つの種類が優勢となっています。バクテロイデス門というのは善玉菌を好む日和見菌といわれています。フィルミクテス門というのは発酵食品に含まれている菌や皮膚に常在している菌、土壌菌などです。
腸内細菌は食べ物を分解するときにさまざまな物質を排出します。バクテロイデス門の細菌が食べ物を分解すると排出される短鎖脂肪酸は、腸から吸収されて血液を通じて全身に届けられます。この短鎖脂肪酸が脂肪細胞に働きかけると脂肪の取り込みが止まり、肥満を防いでくれるのです。逆にフィルミクテス門の細菌は食事から取り込むエネルギー量が多く、そのため肥満に結びつきやすいといわれています。
それがよくわかる研究報告があります。肥満の人と健康な人の腸内フローラでは大きな違いがあるというものです。肥満の人ではフィルミクテス門の細菌が多く、バクテロイデス門の細菌が少ないことが明らかにされているのです※1。複数の標準体型の人と肥満の人に標準カロリーの食事を3日間食べさせた後、高カロリーの食事を3日間食べさせ、それぞれの期間の排泄物に含まれたエネルギー量と腸内細菌を検査した実験も行われています。肥満の人は標準カロリー食でも高カロリー食でもエネルギー量に変化はありませんでしたが、標準体型の人が高カロリー食を摂取するとエネルギー量は減少するという結果が出ました。また、高カロリー食を摂取すると、フィルミクテス門の細菌が増加し、バクテロイデス門の細菌が減少したのです※2。
この二つの研究結果から、腸内フローラによって太りやすいかどうかが分かれてしまうのと同時に、太ることで腸内フローラも悪化すると考えられるのです。
腸内フローラ
腸内フローラの変化は肥満の原因にもなっていた!
フローラとは植物群集、花畑の意味です。腸内には細菌がグループを作って棲みついていて、電子顕微鏡で見るとその様子が花畑のように見えることから腸内フローラ(腸内細菌叢)と呼ばれるようになりました。私たちの体の中に腸内細菌は600兆~1000兆個、1000種類以上いるといわれており、重さにすると約1.5kgにもなります。また、腸内フローラは一人ひとりで異なっており、同じ腸内フローラを持つ人間はほかに存在しないとされています。
よくご存じの言葉に善玉菌や悪玉菌があります。乳酸菌やビフィズス菌などに代表される善玉菌は食べ物を分解するほか、腸に集中している免疫力を活性化させるなど、健康に役立つ働きをします。大腸菌やウェルシュ菌などの悪玉菌は、たんぱく質を腐敗させて毒素を発生するなど、病気のリスクを高めます。しかし悪玉菌は、善玉菌が排除できなかった病原菌を撃退することもあります。
この二つに加えて、腸内細菌で一番多いのが日和見菌です。日和見菌はその名前のとおり、腸内で善玉菌が優勢の場合は善玉菌の味方となり、悪玉菌が優勢の場合は悪玉菌を応援します。そのため、悪玉菌が増えて腸内環境が悪化すると、日和見菌も悪玉菌の応援団となり、ますます腸内環境が悪くなるという悪循環に陥ってしまうのです。善玉菌:悪玉菌:日和見菌は2:1:7の割合となるのが理想的だといわれています。しかし加齢や乱れた食習慣などによる影響で、理想的な腸内環境を保つことは難しいのが現実です。
高齢者の便秘
大腸がんのリスクを高める下剤の乱用
便秘になると、早くすっきり出したいと、下剤を用いる人が多いのではないでしょうか。医師の診察を受け、適量を規則正しく服用している場合は問題ありませんが、勝手に大量の下剤を服用したり、常用したりすることは、腸の機能を低下させます。
腸管粘膜にある絨毛(じゅうもう)は、有害物質から体を守る「腸管バリア機能」と食べた物から栄養素を取り込む働きをしています。この絨毛は下剤を使うほど炎症が起きて短くなり、蠕動運動ができなくなるのです。腸の炎症は便秘などによって起きますが、下剤の刺激によっても生じ、下剤を多く使用するほど大腸がんのリスクが高まるといわれています。小林教授は、「便秘で最も怖いのは、大腸がんです。以前は20~30代でがんを疑うことはありませんでしたが、いまは若年化しています。便秘の女性で貧血が伴う場合、鉄欠乏性貧血がほとんどですが、鉄剤を飲んでもなかなか貧血が改善しないときは、がんを疑って調べた方がいいでしょう」と注意を呼びかけています。
腸の老化は加齢や便秘などによって、ボヤのような弱い炎症が長く続くことによって進んでいきます。しかし、最近の研究から食生活や生活習慣によって、進行は大きく左右されることがわかってきました。腸の老化をくい止めて、若く保つライフスタイルを心がけたいものです。