寒暖差疲労
「自律神経は、脳から視床下部に中枢があり、首や脊髄を通り、全身へ指令を出します。人間の姿勢は、土踏まずにしっかりと体重が乗り、耳たぶ、肩、腰、膝、踝が横から見た時に一直線で、背骨がS字のラインを描いているのが理想的です。パソコンやスマートフォンの長時間利用により、首は前へ出やすくなり、男性は猫背、女性は反り腰になりやすい。そうした骨格の歪みが自律神経が通っている首や脊髄を圧迫し、寒暖差疲労を引き起こすベースになっています。私は頭痛やめまい、しびれ等を主に診る神経内科を専門としています。頭痛は片頭痛と緊張性頭痛の2種類にわけられますが、患者さんを診ていると、どちらも骨格の歪み、すなわち自律神経の乱れがベースになっている。首こりや肩こりにしても同様です」
さらに寒暖差疲労で、エネルギーを多く消費すると冷え性になりやすいという。夏場になるとアイスコーヒーやビールなど冷たい飲み物についつい手が伸びてしまう。冷え性はまず手足の冷え、次に内臓の冷え、そして体全体の冷えとの順に進み、自律神経の働きを乱す。
寒暖差疲労
寒暖差疲労の目安として以下のようなチェックを行っている。
・暑さ、寒さが苦手
・エアコンが苦手
・まわりは暑いと感じているのに、自分だけ寒く、長袖が手放せない
・顔や全身がほてりやすい
・温度差があると頭痛や肩こり、めまい、だるさ、関節痛、喘息、下痢などの症状がでる
・熱中症や近い状態になったことがある
・季節の変わり目に体調不良を起こす
・冷え性
・オフィスや自宅などで常にエアコンをつけ、温度が一定の環境に長時間いる
・代謝が悪く、体がむくみやすい。
このなかで1~3個当てはまると軽症、4~6個で中症、7個以上で重症の寒暖差疲労の可能性がある
寒暖差疲労
外は熱中症になるほどの暑さや湿気、一歩屋内に入れば思わず身震いするほど冷房が効いている場所もある。そのような環境下で過ごすことで徐々に疲労がたまる「寒暖差疲労」をご存知だろうか。
「人間は温度差を皮膚で感じます。暑いと体内に貯まる熱を放出しようと血管が開き、発汗し、自律神経は副交感神経が優位になる。逆に寒いと、手足などの末梢の血管を閉め、体幹の熱を守るため、自律神経は交感神経が優位になります。寒暖差(前日比と同日内の日内変動)が7℃以上あると皮膚の温度センサーを介して、自律神経が温度調整をするためにエネルギーを消費し疲労してしまうことを寒暖差疲労と言います」と説明するのは、寒暖差疲労外来を開設している、せたがや内科・神経内科クリニックの久手堅司院長。
自律神経とは、緊張時や運動時などに優位に働く交感神経と、リラックス時などに優位に働く副交感神経からなる。暑い外で副交感神経が優位になった状態から、冷房が効いた屋内へ入ると急激に交感神経が優位になる。まるでジェットコースターのように自律神経が入れ替わることで、余計にエネルギーを消費し、寒暖差疲労が起きるという。その結果、体の冷え、肩こり、首こり、頭痛、めまい、食欲不振、布団から起き上がれない、気分の落ち込みなどの症状が出る。
自律神経、呼吸法で調整
加齢とともに副交感神経の活動レベルが低下
2011年のベストセラー『なぜ、これは健康にいいのか?』(サンマーク出版)の著者として知られる順天堂大学医学部教授の小林弘幸氏によると、交感神経の活動レベルは加齢の影響を受けることはないが、副交感神経は加齢の影響を受け、男性は30歳以降、女性は40歳以降から副交感神経の活動レベルが徐々に低下していくといいます。
この副交感神経の活動レベルをなんとか高めたいものですが、とはいえ、自律神経は私たちの意思とは無関係に動いています。はたして、それを意識的にコントロールすることができるのでしょうか。
実は、それを可能にするのが呼吸法なのです。意識的に行う呼吸法の効用については、お釈迦様も「大安般守意経」というお経の中で説いています。
私たちはふだん無意識に呼吸をしています。しかし、その速さや回数を意識的にコントロールすることはできます。この無意識に行っている呼吸を、意識的なコントロール下に置くことで、自律神経の交感神経と副交感神経のバランスをとることが可能となります。
実際に、息を吐く際には、副交感神経が強く働きます。つまり、吐く息に意識を置いた呼吸法を行うと、副交感神経の働きを高めることができ、交感神経とのバランスがとれるというわけです。
自律神経、呼吸法で調整
交感神経が優位になると顆粒球が増える
自律神経がアンバランスだと免疫力が低下し、ガンをはじめとするさまざまな疾患に罹りやすくなると、免疫理論で知られる安保徹教授(新潟大学)も指摘しています。
人は生きていくうえで、とかく交感神経が優位になりやすく、そうした状態が長びくと、さまざまな病気を発症し、その先にはガンがある、といいます。というのも、自律神経のバランスと白血球の働きが密接に関わっているためです。
白血球は3種類あります。基本細胞であるマクロファージ、マクロファージから生まれた貪食能の強い顆粒球、免疫を高めるリンパ球です。
健康な人は顆粒球とリンパ球の比率が6:4ですが、交感神経が優位になると顆粒球が増え、顆粒球が放出する活性酸素で細胞や組織がダメージを受けます。免疫力を高め、病気を遠ざけるには、副交感神経を優位にする必要があり、ストレスを解消し、心安らかな状態でいることが大切と安保氏は説いています。
自律神経、呼吸法で調整
自律神経、呼吸法で調整
なにかとストレスの多い現代人。ライフスタイルも夜型傾向にあり、ともすると自律神経のアンバランスを招きがちです。自律神経の失調は、うつ病などさまざまな疾患を引き起こす要因となります。今回は自律神経の調整に最も手軽で効果的な呼吸法をご紹介いたします。
深い呼吸が自律神経を整える
緊張状態にある時、心を鎮めるために深呼吸が効果的であることはよく知られています。なぜ、呼吸を深くすると心が落ち着くのでしょうか。そのカギは、自律神経のバランス調整にあります。
自律神経は私達の意志とは関わりなく、身体機能を健全に保つために働いています。胃や腸、あるいは心臓が休みなく動いているのも自律神経が機能しているためです。
自律神経は交感神経と副交感神経という相反する働きの二つの神経から成り立っています。交感神経は活動・緊張・ストレスといった状態にある時、とくに昼間に優位になります。一方、副交感神経は休息やリラックス状態にある時、とくに夜間や睡眠中に優位になります。
自律神経のコントロールは無意識のうちに行われていますが、交感神経と副交感神経のバランスが乱れ、どちらか一方だけが優位な状態が長く続くと、倦怠感や不眠、動悸や頭痛、不整脈、食欲低下といったさまざまな不調が生じ、昂じると自律神経失調症と診断されます。
この自律神経の交感神経と副交感神経をバランスをとることが健康のカギといえますが、そのためには、日頃からストレスや疲労を溜めない、昼夜逆転の生活をしないことを心がけることが大切です。
自律神経と腸の関係
首を温める。
冷え性の人は首、手首、足首を冷やしてはいけないと言われますが、首を温めることは副交感神経の働きを高めることに直結します。首には副交感神経と交感神経の要所があり、脳から腸まで届いている大切な神経の通り道と言われています。
・免疫力を上げる。
「免疫」は私たちの体を細菌やウイルスに感染して起こる病気や体の中にできる異物から守ってくれるシステムのことです。この免疫の正体は血液中にある白血球という成分です。この白血球も交感神経と副交感神経が深く関わりながら、自律神経に身を任せてバランスを保ち、免疫力を高めているのです。つまり自律神経のバランスを整えれば連動して免疫力も上がるのです。
自律神経と腸の関係
ほどよい運動や体操、ウォーキングをする。
朝の光を浴びて自律神経のスイッチを入れ、無理のない自分に合った運動や体操、ウォーキングを取り入れることで自律神経が整います。体を動かしながら深い呼吸ができる程度のペースで行うことで、副交感神経の働きを保ちながら、良質な血液が体の末端までしっかりと流れ、酸素や栄養が末端の細胞まで届きます。健康の最大のカギは良質な血液が体の末端までしっかりと流れることです。
・毎朝コップ1杯の水を飲む。
朝に飲む水は睡眠中に失った水分を補うとともに、副交感神経の働きを高め、自律神経のバランスを保つことができます。またコップ1杯の水を飲むと自然な便意を促すことができます。
・朝ごはんを食べる。
朝ごはんを食べてすぐは交感神経の働きが高まりますが、その後は副交感神経が働いて胃腸を活発に動かし消化吸収を促します。3度の食事の度に自律神経がこうした動きをすることで、胃腸の働きが活発化します。
自律神経と腸の関係
・朝日をあびる。
朝日を浴びると気持ちいいとか清々しいと感じるのは気分的な問題だけではありません。体の中では「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンという物質が出て、すっきりと目覚めさせる、やる気を出させる、自律神経のバランスを整えようと働きます。セロトニンは全身にありますが、特に腸にたくさんあり、腸のぜんどう運動を活発にします。日ごろから腸を整えていれば「幸せホルモン」が出やすくなります。
・10分早起きする。
これまでより10分早起きをすると自律神経を整えるため多くのことができます。例えば、簡単な朝食をとる、ゆっくり歯を磨く、ニュースをチェックする、ゆっくり身支度する、持ち物を確認するなどです。気持ちが焦ると自律神経が乱れやすくなります。呼吸が浅くなり交感神経ばかり高くなってしまいます。
・落ち着いてゆっくり話す。
意識してゆっくり話すようにすると自然に呼吸も深くなり心が落ち着き副交感神経の働きが高まります。相手に伝えたいことがあるときほどゆっくり話してみてください。
自律神経と腸の関係
腸と自律神経のバランスがカギ
では具体的にはどうすれば良いのでしょう?簡単な方法をいくつか紹介します。腸の働きをよくし、自律神経のバランスを整える生活を少し心がけてみてはいかがでしょうか。自律神経・「ストレス」が便秘や下痢を引き起こす。
腸の動きとストレスには密接な関係があります。人がストレスを感じると交感神経が優位になります。ところが腸のぜんどう運動を支配しているのは副交感神経ですからストレスが溜まると腸の動きが鈍くなり便秘を引き起こします。反対に神経性の下痢もストレスにより引き起こされます。便秘や下痢を解消するにはストレスを溜めない、腸内環境を整える、食物繊維(野菜、キノコ、海藻等)や発酵食品(納豆、みそ、キムチ、甘酒、ヨーグルト等)をとり入れる食生活を心がけることが大切です。
・「4と8の呼吸」をする。
私たちは自律神経のおかげで無意識に呼吸ができます。ところが物事に集中しているときやストレスがかかっているときなどは、交感神経が優位になり呼吸数が増えて浅くなります。そんな時に「4と8の呼吸」(ゆっくり4秒かけて息を吸い、8秒かけて息を吐く)をすると副交感神経を刺激することができます。通常の呼吸より多くの酸素を取り込むことで血管が開いて血流が良くなり、緊張した筋肉がゆるんでリラックスし、気持ちもゆったりと落ち着いてきます。
・「1日20回のほほえみ」を行う。
「笑う門には福来る」という言葉があるように口の両端をキュッと引き上げ、口角を上げるたびに副交感神経が刺激されて心に落ち着きが戻ります。