運動新型は、12歳までに決まる
運動神経は12歳でほぼ完成する
“運動神経がよい”という言葉は、曖昧でありながらも共通認識がありますよね。いわゆる「スポーツや技能を巧みに行う能力」と定義しましょう。その能力は高いに越したことはありません。では、運動神経を少しでも伸ばすための、適齢期はあるのでしょうか。
どうやら、運動神経の能力は、幼稚園から小学校中学年にものすごく育成されるようです。具体的にいうと5~12歳がゴールデンエイジだと思ってください。特に、小学校中学年までに80パーセントの能力が開発され、12歳でほぼ完成するといわれています。要するに、運動能力を育成する、伸ばすならその年代に、ということです。実際、日本や世界レベルのトップアスリートの多くは、3歳から5歳に、そのスポーツを始めている例が多いのです。
そして、スポーツの動作を習得する速度は、小学校高学年の時期から緩やかに低下して、15歳以降はおとなとほぼ一緒になります。つまり高校生くらいから新しいスポーツを始めるとしたら、二十代、三十代と同じくらいの習得速度になるので、小中学校の部活で味わうような、スイスイと上達することは難しいということです。運動能力を伸ばす、刺激するということに関しては、子ども時代に運動をするということがそれだけ大事なのですね。
もうひとつ、注目したい点があります。一流のトップアスリートたちは、子どもの頃からその競技だけをやっていたわけではないことが多い、という点です。
子どもの頃は、その主目的となるスポーツを週に数回やっていても、それ以外の日に、ダンスやサッカー、野球など、いろいろなスポーツをやっていたということです。多様な動作や視野、視点に触れて楽しく運動能力を育てることが、一流になるうえで望ましいのかもしれません。
不都合な真実運動神経は12歳までに完成してしまう
不都合な真実運動神経は12歳までに完成してしまう
だから一流選手は3歳から始める
“運動神経がよい”とは、どういう意味なのだろうか。聖路加国際病院スポーツ総合医療センターの田崎篤副センター長は運動神経の能力は、小学校中学年までに80%が開発され、12歳でほぼ完成するといわれている。運動能力を伸ばすならその年代にスポーツをすることが重要だという――。
レスリングとサッカーの組み合わせが絶妙なワケ
アメリカの小学校で、体育の授業でレスリングとサッカーの組み合わせをしているのを見ました。レスリングは柔軟性と体幹の強さ、そして闘争心を育みます。サッカーは持久力、瞬発力、そしてチームワークなどを養います。多様な力を磨ける組み合わせを選択するあたりは、さすがスポーツ大国のアメリカ、よいところに目をつけていると感心します。
レスリングは1896年の第1回オリンピックアテネ大会から実施されている伝統あるスポーツです。組み合って押したり倒したりすることにより、体幹の筋力を鍛えながらの有酸素運動になっています。
体幹の筋肉を鍛えることの大切さにピンとこない方もいるでしょう。赤ちゃんが最初に行う動作に、寝返りやハイハイがありますよね。あれは体幹の筋力が向上することによりできるようになるのです。つまり寝返りやハイハイは、生まれて初めて行う体幹トレーニングであり、体幹を鍛えることはすべての運動の基礎となるのです。体幹が肝心であるイメージがわきましたか? また、有酸素運動は勉強で用いる脳の機能を刺激できることが解明されています。
筋トレの新常識
継続的なトレーニングにも有効な「筋肉の新常識」
なお、これらの報告は、筋タンパク質の合成率や筋肥大の「短期的」な効果を調べたものです。しかし、トレーニングに励む人にとって最も重要なのは、継続的なトレーニングによる「長期的」な効果でしょう。2012年、マクマスター大学のミッチェルらは、トレーニング未経験者を対象に、レッグエクステンションを高強度で行うグループと、低強度で行うグループに分けて検証しました。両グループともに1日3セットで週3回、疲労困憊になるまでトレーニングを行い、これを10週間継続しました。その結果、両グループともに大腿四頭筋(太ももの前の筋肉)の筋肉量は増加したものの、グループ間で筋肉量の有意な差は認められませんでした。2016年の同大学のマートンらが行った多関節トレーニング(複数の関節に負荷をかけるトレーニング)の研究でも、同様の結果が出ています。つまり、長期的な筋肥大の効果においても、低強度トレーニングでも回数を増やして総負荷量を高めれば、高強度と同等の効果が得られることが示唆されたのです。そして2017年には、これらの報告をまとめて解析したメタアナリシスが報告され、低強度でも高強度でも総負荷量を高めれば、筋肥大の効果は同等であることが示されています。現在はこれらの研究報告が「筋肥大の効果は『総負荷量』によって決まる」という、筋トレの新たな“常識”を支える科学的根拠(エビデンス)となっています。「筋肉を大きくしたければ、高強度でトレーニングをしよう」から、「筋肉を大きくしたければ、トレーニングによる『総負荷量』を高めよう」へ──。最新の研究によって、現在は総負荷量を高めるための様々なトレーニング因子が検証され、その最適解も明らかになっています。これまでは、トレーナーのアドバイスや、情報源の不確かな俗説に振り回されている人も多くいました。しかし近年は筋トレに関する様々なエビデンスが揃っています。現代が「科学的に筋肉を鍛える時代」といえる理由は、こうしたエビデンスのなかから自分に最適なトレーニング法を選択できる時代が到来したということなのです。
筋レトの新常識
筋肥大の決め手になる「総負荷量」とは
総負荷量は「トレーニングの強度(重量)×回数×セット数」によって決まりますが、そのエビデンスのひとつとなっているのが次の報告です。
2010年、カナダにあるマクマスター大学のバードらはトレーニング経験者を2つのグループに分け、高強度でのレッグエクステンションを、一方のグループは1セット、もう一方のグループは3セット、それぞれ疲労困憊になるまで行いました。
終了後、両グループの平均総負荷量を計測したところ、1セットのグループの平均総負荷量は942kg、3セットのグループは2184kgとなりました。さらに、トレーニング後の筋タンパク質の合成率を計測すると、総負荷量の高かった3セットのグループが有意な増加を示していたのです。
この結果から、強度が同じでも、セット数を多く行い、総負荷量を高めることで筋肥大の効果が増大することが示されたのです(図表2)。
さらに、低強度トレーニングの場合も、総負荷量を高めれば筋肥大の効果が大きくなることが報告されています。
バードらは、高強度でレッグエクステンションを行うグループ、低強度で行うグループに分け、それぞれ疲労困憊になるまで行わせました。その結果、高強度グループのトレーニング回数は5回ほどで終わった一方、低強度グループの回数は24回となり、総負荷量は高強度の710kgに対して、低強度は1073kgとなりました。気になる筋タンパク質の合成率では、総負荷量の大きな低強度グループがより高い増加を示したのです。
この報告により、低強度トレーニングにおいても、回数を多くし、総負荷量を高めることで、高強度と同等の筋肥大の効果が得られることが示唆されたのです(図表3)。
筋トレの新常識「追い込みすぎはムダだ」
バーベルの重さは重要ではなかった
ムリない重さでも回数を増やせば鍛えられる
これまで低強度トレーニングでは、少ない数の筋線維の収縮にとどまってしまい、十分な筋肥大の効果が得られないと考えられてきました。これに対して、高強度トレーニングは、多くの筋線維を収縮させることができます。しかし、高強度トレーニングは、身体への負担が大きく、筋トレの初心者や未経験者、高齢者にとって簡単ではありません。また当然、「つらさ」「苦しさ」を伴い、筋トレを長く続けていくためのモチベーションにも影響します。ところが近年、低強度トレーニングでも総負荷量を高めれば、多くの筋線維を収縮させることが可能であり、高強度のそれと同等の効果を得られることがわかってきたのです。
筋トレの新常識「追い込みすぎはムダだ」
筋トレの新常識「追い込みすぎはムダだ」
バーベルの重さは重要ではなかった
美しい筋肉を手に入れるには、激しいトレーニングが必要だといわれきた。だが、それはもう古い。筋トレの成果は「バーベルの重さ」では決まらない
筋肉を大きくしたいと考えた場合、従来の筋トレの“常識”では「とにかく高強度のトレーニングをひたすらやり続ける」ことが推奨されていました。しかし、最新のスポーツ科学は「低強度トレーニングでも、回数を増やせば、高強度と同じ効果が得られる」ことを示唆しています。つまり、筋肥大の効果には、従来言われていたトレーニング強度ではなく、強度に回数やセット数をかけ合わせた『総負荷量』にカギがあるということです。詳しく紹介する前に、まずは、筋肉はどのようなメカニズムで太くなっていくのかを見ていきましょう。どれだけ筋繊維を収縮させられるか筋肉は、数千から数十万本という筋線維が束になって形づくられています(図表1)。筋肥大は、筋線維の一本一本を肥大させていくことで生じます。筋線維は1つの筋細胞が細長くなったもので、アクチンとミオシンといった筋タンパク質からできており、筋線維の肥大は筋タンパク質の合成によってもたらされます。この筋タンパク質の合成は、筋線維の収縮がスイッチとなって促進されます。そのため、筋肥大の効果を最大化するためには、トレーニングによって「なるべく多くの(できれば全ての)筋線維を収縮させること」がポイントになるのです。
筋トレで健康対策
筋トレで腹筋を鍛えて6つに割れたら見た目には格好いいですが、体のバランスを思えば、鍛えるべきは背筋です。
もう1つの大きなとらえ方として、体の表面を覆っている大きな筋肉を表層筋、骨にくっついている体の深いところにある筋肉を深層筋といいます。表層筋は動かそうと意識すれば動かせる随意筋ですが、深層筋には、意識しても動かすことができない不随意筋が多くあります。そして、表層筋が硬くなると、深層筋の動きが阻害され、筋肉が凝り固まって、体のバランスが悪くなってしまいます。
ラジオ体操やヨガでも、ストレッチでも構いませんので、表層筋を動かして体を柔らかく保ちましょう。
【結論】適正体重の維持と、屈筋と伸筋のバランスがカギ
筋トレで健康対策
体のバランスを思えば、鍛えるべきは背筋
では、脂肪がついていない「痩せ型」はどうでしょう。背筋や腹筋が弱くなり、姿勢が前かがみになれば不調を招きます。内臓が圧迫されて胃腸が悪くなったり、肺が圧迫されて広がりにくく呼吸が浅くなりがちです。また、姿勢が崩れると骨盤まわりを支える筋肉が凝り固まり、血流が悪くなり、冷え症やむくみを引き起こします。
このように、もともとの骨盤や肋骨の形状に加え、体型の違いで歪みや痛みが出る部位、症状は変わってきます。
体に負荷をかけないようにするには、若いころからある程度の適正体重を維持することがなにより重要です。今、肥満を指摘されている人は食生活を見直し、適度な運動を取り入れて体重を減らすことを心がけてください。
それから、縮める筋肉である「屈筋」と、伸ばす筋肉である「伸筋」のバランスも大切です。たとえば、体を前に縮める腹筋は屈筋ですが、背中側にある脊柱起立筋などはそれに反して伸びているわけで、伸筋となります。人間の体は伸筋より屈筋のほうが強く、どうしても屈筋の力に引っ張られてしまいます。また、伸筋は年齢とともに衰えやすく、意識して鍛えないと屈筋とのバランスが保てなくなり、体がゆがみやすくなるのです。
筋トレで健康対策、
腹筋より背筋が重要なワケ
意識して鍛えないと体が歪んでくる
痛みに効果があると続けている習慣や運動が、症状を悪化させているかもしれない。腰痛や関節痛について、10のテーマに応じて専門家に聞いた。第3回は「肥満と痩せ型」――。(全10回)
骨格が違えば太り方も違う
一口に肥満と言っても、骨格の違いにより脂肪のつき方には特徴があります。前述のとおり、男性は女性と比べて、肋骨の前面下部で左右の弓状の部分(肋骨弓)がおおむね広く、骨盤は広がりがない骨格をしています。そのため、肋骨の下から太鼓腹がせり出すような状態に脂肪がつき、メタボ検診でいうところの内臓脂肪の多い「リンゴ型」になりがちです。そのため、背中が反り返った姿勢になり、慢性的な腰痛を招く大きな原因となります。
一方、女性は、おおむね肋骨に広がりがなく骨盤が横に開いている骨格で、下腹部やおしり、太ももに皮下脂肪がつきやすいため、太ると下ぶくれの「洋ナシ型」になりやすい。すると、膝や股関節に負担がかかるようになります。また、皮下脂肪のたまりすぎは、女性ホルモンに影響するため、月経異常や不妊になるおそれもあります。
ゴルフをする人に多く見られる腰痛の正体
椎間関節性腰痛の予防としては、腰をあまり反らしすぎないようにするほか、腹筋を鍛えるのも効果的です。腹筋は腹横筋などのインナーマッスルだけでなく、腹直筋や腹斜筋などのアウターマッスルも含めて鍛えます。これらの腹筋群で腰が反りすぎないようにして椎間関節への負担を軽減します。
治療法はリハビリと薬が基本になります。多くの場合、それで痛みは改善します。あまりにも痛みが強く、緩和したければ、椎間関節ブロックで局所麻酔薬と抗炎症薬を注射すると痛みは改善します。これらの治療法の選択は重症度で判断します。痛みが軽い場合はリハビリだけでも十分な効果が得られますが、痛みが強い場合は薬による治療を追加します。薬に関しては、特に高齢者は副作用が心配されますので、年齢やほかの病気の薬との飲み合わせなどを考慮する必要があります。
薬を服用すると、いったん痛みは改善しますが、椎間関節に負担のかかる動作を繰り返していると、再発する可能性が高いです。私が診ているプロスポーツ選手でも、約3割の選手は強い負荷のかかる動作を繰り返さざるをえず、再発しています。リハビリの費用は薬より少し安く、自己負担は1回600円程度(3割負担の場合)です。
金属で固定する手術という選択肢もありますが、別の箇所が痛むことがあることを認識したうえでの判断が必要です。